山ア 聡子
つま先はとおに冷たく固まって深夜ラジオが震えてとどく
粉ラムネ夜中にそっと舐めてると空気が澄んでく気がした、二十歳
ストローの袋で芋虫折ながら「もう制服じゃないから」なんて
二日月息してふいに線になる菖蒲で切った傷が痛んで
骨のない場所は身体にいくつあるバスルームにて煙る前髪
膨らんできちゃった君にあいたくて膨らんじゃった首のリンパも
この部屋は沼の匂いがするよね、と金魚のシャツを着た君が言う
貨物基地の祭りを君は知らずしてマルボロ(赤)を燻らせている
マルボロのひかり歪んでほうたるに化ける深夜の戦争フィルム
ベランダへ細かく煙が流れてく「そうしていると猫背、目立つね」
枝豆を裸の胸にあてがってほら心臓、縮んだ、あたしの、
何シンドロームよ、無駄に息を吐き「ハリソンフォード」を言いまちがえる
君のその乾いた腹に描かれた壁、文字などは擦れて読めぬ
飛び込み台番号(7)のうえに立ち塩素の玉のきらめき見てる
死ぬときはプールの匂いを纏いたい「タイルをみっつとったら終わり」
塩素錠口に含んですぐに吐く。遊びなれてもすこし怖いね
サーカスはさめざめ怖いものだからきっと綺麗に見えるのでしょう
虹色に塗りわけられた天井やピエロの動物みたいな体臭
縁日には、おかまの聖子ちゃんが母さんと来ていた、蜻蛉柄の浴衣で
ひゅうひゅうと肺から幽かに音がするフランクフルト売りのおじさん
早売りのジャンプのために自転車を飛ばす「モーテルピッコロ」越えて
漆黒の毛なみを雨で湿らせた猫がつるりと越えたサルビア
理科室のホルマリンに似た甘い香が夏の土から匂い立つなり
床板の割れ目に西瓜の種落としおおきくなれよとひそかに願う
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