ウニ・イクラ丼

染野 太朗

焦燥に塗るる気のして歩を止めつ雑誌書庫ふかくコピー機灯り

机にはチアリーディングのビラ置かれ寒しも講義前の教室

紫式部のトラウマを語る老教授の鼻息荒くマイクを打てり

公認会計士の友に「おごるから」と言われ掻っ込むほかなしウニ・イクラ丼

郷愁ではないが暇つぶしでもないが押入れに探す『ドラゴンボール』

ぶちぶちと新型マーチを打つ雨の予報通りに降り始めたる

いつ意味を手放したのか芝川に白く背の高い鳥が来ている

改札の向こうの葡萄売りの声ばかりが聞こえる 悲しんでみる

犬を曳く 犬ににおいを嗅がれたる電柱冷えぬままふいに夜

黒糖飴を噛み砕きおり戸締りをいくどもいくども確かめながら

携帯を投げつけたことありますか母はおっぱいを揺らすだけです

ああ母が追いかけてくるわが財布を掲げて母が追いかけてくる

玄関にこぼした灯油を拭く母の軍手指先だけが黒くて

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