自転車

濱田 晶子

君の名をパスワードにして二回目の春が来る 青い手帳に

(腕よりも心で運転)スカートを挟まれながらまひる駅まで

そっけない君の姿もない夜にくまのおしりを縫い合わせます

ドアを売る店舗が増えて最近は自転車事故が少なくなった

ただ闇の公孫樹木立のまんなかにコンビニがあり学生がいる

キャンパスの森のはずれにある 夜の光を矯める機械員室

廊下からドヴォルザークが流れ来る女ばかりの神仏講義

学生は静御前に身を寄せて女となりてここを去りゆく

天上へ伸びてゆく白い煙突のけむりをだすことなくて十月

霧雨の昼は白にも白かさねそんざいしないえんとつになる

冬空にテニスコートが溶けだした 君と師走が加速はじめる

くものあみ黄葉ひとはふるはせて道路標識あかくありたり

視察ヘリ二機上弦に突つ込めり学園祭のゆふさりつかた

一首だけ書いたページの余白にはちひさな虫が潰されてゐた

窒素

南国の花血の色の鮮やかを舌上に夜の客となる暫し

清純な接吻くちづけながく胸部より蛇の一体ゆるゆると出づ

文明の定義し忘れわすれゆく香水瓶の熱帯魚 われ

月深く銀の記憶はゆくりなし鍋のシチューの溢れだしたる

可惜夜は月の破片の宙返り眺む五月の窒素の底で

今朝もまた供華は起きて日を浴びる幹線路なら尚更のこと

誰がいて誰がいないの?アルミ缶ぱたぱたありて死とは永遠

ネブラレヌとふ声のして振り返る世界に赤き巨人の立てり

罪軽き杞憂のように初空を爆音過ぎてやさしき午睡

窓越しにビニール傘を皆差して半透明のからだしている

ゆらゆらとシャンパン灌ぐ 方舟を君は浮かべてわれは沈めて

沈黙の騒騒しさに火をつける残り僅かの麝香と知れば

背を押してほしくて見せる旋毛つむじげの若き黒色十字架の下

潮風を好みて吹かるるあかき髪覗けばハーフパンツの少年

給食のスパゲッティーを平らげて魘されている蛇使い 君

東雲の足の先から明けゆけば君とシーツを失いてひとり

白馬酒にごりざけすすれば朝の夢曳いて君がとなりにいた気がしてる

copyright © 2003 Waseda tanka-kai
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