サウンドトラック

五島 諭

地声から裏声に切り換えるときこんなにも間近な地平線

美しくサイレンは鳴り人類の祖先を断ち切るような夕立

写真を飾るという習慣の不思議さを考えながら星空を見る

無とは何か想像できないのはぼくの過失だろうか 蝶の羽が汚い

あしたふる雪のことばが中指と人差し指のあいだに宿る

約束を果たせないまま物置の隅に眠っているシュノーケル

触れることのできるあたりに喋らない鸚鵡と水泳少年がいる

くもりびのすべてがここにあつまってくる 鍋つかみ両手に嵌めて待つ

ラジカセの音量をMAXにしたことがない 秋風の最中に

夜に飛ぶ旅客機の光の色をこいびとの目の奥に見ている

息で指あたためながらやがてくるポリバケツの一際青い夕暮れに憧れる

BABY, BABY, NAVY BLUE 君の体の可能性〔死〕の隣にいたい

ペンキ屋が梯子を降りる頃合を水平にどこまでも歩いた

黒い花 しばらく会っていなかったいとこがかじかんだ手をひらく

擬態する蛾の内奥に閉じこめろ力にまつわる思考のすべて

救われるということは何ベンチプレスする人々が窓から見える

まだ雪がふらないせいで目も耳も鼻も両手も他人に慣れない

洋梨の明かりを包みこむ指で足し算も引き算もしていた

公園のベンチのへりの鳩の糞は史上最大のチャームポイント

どこか遠くで洗濯機が回っていて雲雀を見たことがない悲しさ

果物屋になる人たちへ 遠い日のあけびをいつか売ってください

もし生まれ変われるのなら透明の傘かパイプ椅子がいい

手探りが足りないのです早朝の自分の爪は薄くて白い

三毛猫はいつも退屈(地下街を抜け)三毛猫はいつも憂鬱

世界を創る努力を一時怠って風に乗るビニールを見ている

語るしかないミキサーの野菜ジュースのこと解凍される鶏肉のこと

瞬間的にうれしさはくる近くでも遠くでも雑草が緑だ

新しい人になりたい 空調の音が非常に落ち着いている

はじめから美しいのだこの手からこぼれていったポップコーンも

フィールドに白いラインを引く人のように遠浅の渚を歩く

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