::吟行会報告　��田　翔子

二〇〇二年三月三十日　谷中吟行会　

　朝、ＪＲ日暮里駅集合後、谷中霊園の桜並木へ。今年の桜は異常に早かったので三月の終わりだというのに桜は散りはじめている。見頃はとうに過ぎたが散り際を眺めるのもいいものだ。佐佐木信綱らの墓を見ながらゆっくり歩く。
　そのあと霊園からほど近い台東区立朝倉彫塑館を見学。彫刻家朝倉文夫の自宅兼アトリエに彼の作品を展示した美術館だ。まずアトリエに入ると、代表作「墓守」、「大隈重信像」（早大にある像とほぼ同じだと思われる）などがあり、続く住居部分は、和洋折衷の凝った造り。池のある中庭を眺める日当たりの良い和室、天井まで届くつくりつけ本棚のある書斎、谷中霊園の桜、上野の森、遠くに新宿の高層ビルまでが見える屋上。ついつい時間を忘れてのんびりしてしまう。
　彫塑館近くの中華料理屋で昼食後、自由時間をとる。各自、周辺を自由散策し集合時間までに歌をつくってくるのだ。私は好物の「後藤の飴」「羽二重団子」「菊見せんべい」を購入後ずっと行きたかった喫茶店「乱。歩」へ。うす暗い店内でバナナジュースを飲み、しばしぼんやり。
　自由時間のあと、地下鉄千駄木駅近くの「喫茶店千駄木倶楽部」に集合。歌会をひらく。（歌稿参照）
　午後六時。歌会を終え、また谷中霊園の桜並木を通って駅に向かう。満開を過ぎても夜桜見物の宴会の数は多い。並木の両脇には青いビニールシートが張りめぐらされている。来年の桜はもう少し、ゆっくり咲いてほしいと思う。
「谷根千吟行歌会」
　　　（喫茶千駄木倶楽部にて）
一、生き物は産めよ増やせよ地に充てよフミオの家に降りそそぐ声　　　関水徹平
二、ブロンズの台から猫が逃げていく花びらまじった風に誘われ　　　　田中　創
三、人の目にふれ猫の目にふれるときやや広すぎる霊園である　　　　　五島　諭
四、明日もまだ休みなのだしもう少しこうしてようか束の間の春　　　　��田翔子
五、三月の秘儀(サクラメント)が甘やかな墓銘を空に書きこんでいく　　　　　間崎和明
六、鳴っている音がミかファかわからない　かかとはずっと照らされたまま　　　　　　　橋元優歩
七、あのひとに今年も送るラブレター　ヨモツヒラサカサクラヒトヒラ　　　　山根かなえ
　　［ひとこと注釈］
　
一、「フミオの家」とは彫塑館のことだろう。
二、彫塑館には猫の彫刻が沢山あった。（朝倉文夫は大の猫好き）
三、谷中霊園を詠んだ。
四、彫塑館は居心地が良い。
五、サクラメントはキリスト教用語。
六、彫塑館にあった中国の壷はいい音がした。
七、「ヨモツヒラサカ」黄泉平坂。現世と黄泉の国のあいだの坂。