::髭・やまあひ・他

間崎和明

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頬髭を鏡の前で剃るときの動物の眼にやがてこはばる

二枚刃の髭剃りゆゑに剃り残すたとへばのどの下のひとこと

風向きをヒゲで感じる追ひ風にときには道がわからなくなる

いくつかの背中を風が越えてくる雑踏にこゑみうしなふとき

のどもとにかそけき傷をのこすこと わすれることをゆるされること

喧騒にうすくらがりに内戦に萬朶(バンダ)のヒゲの散りゆきしかな

さびしいのならばさびしいといへばいい玻璃戸に秋の日はかそけくて

あかるくて冬のひまはりの花束に火をかけにゆくわが翳となる

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やまあひ

間崎和明

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四万十のかはえびといふを東京にてくらへるもげに寂しき思ひぞなむするなり

かはえびのからあげくらふときのわれに野生はあらで かへらむぞ 山に

かへらむとものおもひしてひといきに酒盃干しにき 帰られざるゆゑ

夜半の蕭雨にけぶる新宿ビル群を目白の岡の酒肆より

ズブロッカねぶりつつながめしは望郷に駈られたるをのこの慙愧にこそあらめ

おほははの墓へとつづくやまみちをのぼり来たれば杉翳くらし

かむなびの森に入りてはうつろへる声をくらがりに聴かせよと こゑ

やまみちにひとりなり山のをぐらきをひとりなり背にやま聴きてゐる

しらしらと濡れてゐたりぬ白骨をあなうらやはく踏み過ぎにしを

おほき手がやはくかふべをつかむなりやまみちをかへりみれば蛇(くちなは)

楊梅(やまもも)の真紅きを わが族(うから)らの墓所のあかるきことのたのもし

やまかげにわれはことばをむすぶなりましづかなればすさまじきかな

やまのはのくらみゆきたる残光になにものぞわが影統べたるは

わが息をせんせんとわが聴きゐたり あなかま、やまにとらへらるるを

高知は北山のふるさとにかへることはいかにもやすかりき されど帰ることはひとかたならで

かへらむぞ かへらむぞやまへ  やまみちに繋がれゐたるわが血脈か

いさやかへらむわがふるさとにふるさとの北山にいづれ芥のごとく

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水に関して、あるいは泳ぐため、とかのいくつかの冴えていないやりかた

間崎和明

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ヒトの腕の、流線型がざわざわと水の粒子をかきわけていく。

(folklore)(フォークロア)裸眼で水に触れるとき水の呼吸が見えるって、…ウソ。」

海に行けない関係としてクロールの速さを競う息継ぎのこと

《特例2》 きみと泳いだ場合には塩素が右の肩からにおう

塩素で眼が赤くなってるからぼくの妹のこととか聞いてくる

プールサイドを走ってしまい怒られた 今年で二十四歳である。

プールサイドで怒られていて笑われた 今年で二十四歳である。

水が、怖いタイプでしょう? と無理矢理な子供の頃の分析を聞く

平泳ぎで前に進めない中学生みたいな顔でうつむいている。

元水泳部員のくせに適当な髪の乾かし方で寝ている。

プールの水の中はさわがしいから家の風呂場でしずんでしまえ

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なつやすみ、など。

間崎和明

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なつやすみ。                    

な笑まひそ おまへが笑つているときは鶏舎に鶏の影深くある

つよがりのやうに帽子を飛ばされて追ひかけて行く7月になる

やせつぽつちのおまへがくろいかほをして嘘のつづきをねだつてたつけ

すれ違ふかほになにかをおもひかけ、思ひ出せずに水銀となる

みづうみに母を捜してをりますと櫂がみづうつおとを聴きます

秋なりしかば                     

まちかどにちがふ声音のかなしくてふりむかざりき秋なりしかば

仏教的に言つてしまへば執着(しふぢやく)のひとつでありて眠れずにゐる

冬へ                         

一本の檜ですあるいは卑怯な男です ざはざはと夜震へてゐます

匿名者(アノニマス)ばかりが蛇のかほをして雑踏に〔神告りき〕とおらぶ

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