::暖流公園 清水寿子

みづに降るさくらさらさら今日生れし稚魚のめぐりをかすめて流れ

海峡に迫り出す公園 暖流が余力で回してゐる観覧車

オブラートにのりきらざりし粉砂糖 天の川より涼しげにあり

屋上のアクアリウムに弟は一人称を泳がせてゐる

さかなたちみどりでありし劫初より柑橘系の香りが人気

はじめてのメメント・モリは波の数かぞへて声を失つたとき

手放しで憧れてゐた海の国 母の蔵書もくづさぬままに

アノニムの顔のささめき旅人と大学を創る約束をして

からだにはああんと大き穴がある 酔ひて厨に横たはるわれの

いちどきに三人までは呪へるよ 工事現場のコーンかぶつて

無精卵の月のみ残る朝われは片目押さへて駅へ走れり

静物画あつまる画廊 兄嫁の祖父とわたしと擬似家族する

初めての就職先にふさはしき地下一階のプラネタリウム

われのみのプラットホームわが乗らぬ一番線の電車出てゆく

病院は砂漠の中さ吹き荒るるチョコの銀紙まじりの嵐

発見した定理とともに青年は月曜の朝退院すると

あるところより死は清くなるといふ 紫陽花の枯死を雲が見てゐる

波よせる 入道雲の屋根裏できいんと伸びをせしネコの爪

雲厚きブリテン島は今ひらき蜻蛉(あきつ)のやうな一機を容れる

ト音記号育ちてバイオリン・ビオラ・コントラバス・チェロになるまで見つ

チェリストはチェロに似合ひの背の高さ 首筋に首触れあはす愛

秋の日はひらりひらりと剥がれさう牛乳壜を重しに置かう

平らなり 沼と化したるま昼間のカフェオレの底・コインの表

仲麻呂の末裔(すゑ)と言ひはるをのこなり月に留学すと言ひたるは

びーだまを目薬工場跡地にて拾へりあかあおしろみどりいろ

眠るための力はいつも残つてる さみしくて手を洗ふのは癖

鉛筆を二本重ねて立てやうとしてゐるうちに音楽終はる

こはれたるやうに赤いよ鶏頭を昨日も今日もさはつてしまふ

くれなゐのニットドレスを残像にうつくしきひと川を渡れよ

目の粗き布をまとひて甲板に立てば古代の女帝の系譜

あれは馬 飲み下したる飴玉がしばらくわれを支配してゐた

自転車のなほやせ細る神無月また陸橋を渡る苦役に

まなぶたを上げるとともに街灯に灯ともる 世界と気が合つてゐる

椅子の背に明日着むセーター掛かりゐて秋は誰もが許されるやう

空海の幼名は真魚(まを) つちふまず美しすぎるわれの弟

てふてふを追ひてのぼらむ この坂は砂糖を焦がすにほひして照る

プティングのにほひの中でもう一度生まれてごらん古びたピアノ

古びたるピアノ ピアノの先生は光のミイラを庭に飼ふ人

マシュマロを炙つて食べる 夕焼けを素直に受けてしまへば楽だ

早い者勝ちの試合に手を引いてくれる人、ひかりのなかの塵

二等辺三角形の底辺を君と歩めりさびしくはなし

眼球にひかりをいれてわたくしは記憶を運んでゐるに過ぎない

重力は逃れがたきぞ鈴振れば鈴の花粉はちらちらと落つ

ミルクティーにひとつで冬をこらへをり雲は頭巾に詰めるべき綿

ひらがなで書けばかくまで愛らしきぼうこうがんに大伯父は死ぬ

北極点盲点融点消失点 点とがりゆく性質は冬

花の名を娘の名前につけしのち男はどこまで行つても寒い

馬小屋のマリアの息が白くつて何も見えないクリスマスイブ

兄弟のいないジーザス・クライスト冬ふかき横断歩道を渡る

雨の日はすべての男が弟で歩いても進まない線路沿ひ

back to index

a

a

a

a

a

a

a

a

a

a
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送