::明日のこと 岡本潤

明日のこと語るばかりで向き合えず高層ビルに陽のうつる見ゆ

散るという激しさはなく花のもつかたちがくずれ蘂のみとなる

海はまだ夏の暑さを保ちいて日暮れの逗子は風強かりき

彗星が海に落ちると聞くならば沃野を捨てて駆けていきたし

高架下看板標識並み立ちて「川北診療所」目立たず揺れる

道は絶え廃坑一つありにけりそのあたりより凩は吹き

親族というをこそ知れ桜湯の飲み終わりしをかたづけおれば

まっすぐとみつめられれば私は嘘をつかない下を向かない

干拓の田の先にある島一つ誘われて行くことなく師走

街遠く休耕田に日を浴びてさびれた看板「マルフク」は立つ

絆切れ背中のかたち忘れたが年賀状なら書けそうなんだ

高校のころに通いし店過ぎてハンドルを切る正月三日

冬日中那須野はとても暖かく一つの命いま宿りたり

風はなく寒気が主役たりし日の池の底にて稚鯉は寝ており

面接を終えたる真夜の富士見にていただきますと言わず飯食う

日照の伸びゆく駅のホームにて不確かなもの信じていたし

天界のもっとも奥で紡がれた初雪届くわが外套に

壁面に冬の木立の影がある 私は試験勉強をせず

本読めば無知の知という語が浮かびモラトリアムはもうすぐ終わる

日曜の朝犬を連れ見上げれば線路は富士へ富士へと向かう

雪融けて廂間(ひあわい)に水たまりゆく上をそろそろ猫は小走る

死ねばみなただ人名となりにけり批林批孔を講義で知りぬ

コーヒーがまずいのでなく精神が少し乱れている睦月尽

日が沈み浴衣の柄も見えざりき墨河(ぼくが)夕涼(ゆうりょう)不満などなく

背が高く力もあれば歌詠まず九郎義経に我はなりたし

岸辺には高きビル立ち残された風の回廊として川あり

春風が吹くがにふわり胸は浮き工業地帯の運河を渡る

コピーする我の横にて見慣れたる顔あり夜のセブンイレブン

面接に行くはずの昼寝ておれば地熱が部屋を我が身を包む

花冷えの魚籃坂にて悲しみが説明できぬものと知るなり

縦糸と横糸が会い縁となることなどあらず穀雨となりぬ

暖かさよりも光の照る長さ次に強さのゆえに春知る

空気圧たしかめている店員は海をにらんでいるように見え

お互いに点景として見えている浜辺の人と海原の舟

人生の満期に近き人といて春は眠たし呼び鈴が鳴る

内定に近き黄金週間に宮内庁見て面接を待つ

声変わりしていない子と歩くとき我は小石をよく蹴っている

卓球を母としていて今回が最後と思うこどもの日なり

雑草が庭の主役となっている五月歩けばズボンが青む

梅雨前の教室はやや蒸し暑く教授はいつも遅れて来ます

初夏の野に浮かびゆくしゃぼん玉壊るるまでを子は見ておらず

内定のない友とある友と会い話し終われば皆空を見る

南庭の先に栗ありその奥に松原があり海また地球

初夏の森の端にて鳥に会いもぐらの塚に転ばんとする

宗教が勢力を持つ地の民は気高しされど戦さは絶えず

キリストを笑わせるためときとして聖母は首をくすぐってやる

使われぬ図鑑が広い書架を占めルンペン涼む夏の図書館

余談という井戸に落ちたる先生は生麦事件を語りてやまず

十薬を摘める老婆の足首の骨張り出してふらふらと行く

本日はAB型が足りないと言われて行かぬ献血ルーム

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