::未完譜 清水みゆき |
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鬼やらひ鬼のさびしさ思へ君角の固きを悲しめよ 春 失ひて泣き行くわれを花影に狐笑ひて春は暮れゆく われの名を幾百万回呼ばん人の眉を瞑(おも)ひき苦しき夜は 宦官(かんがん)の恋を思ひき春の暮れ白桃の裏いたみゆけるを 姥(はは)よりも魚(うお)に近しき血潮もつ祖父(おほちち)の魂(たま)送りて5月 夏みかん百年前のはつなつの別離のごとき抱き心地かな ひと夏を樹陰にかへす記憶もて汚されぬ日の邂逅、その他 ライチヤウの冬毛伸びゆく昼日中全き愛を考へてをり 赤きあかきポストの上の鬼蜻 虫廷<注:一字> われよりさきに覚むるなかれよ 打ちつけし林檎に滲む斑よりも消えぬいたみを持たざるわれか 帰りきて新潮文庫のしづもりよ まだ暫くは稚(おさな)き怒り ひたすらに忘るることを形とし輪郭のみ濃き君となりゆく そのやうに魚のやうに想はずに恋することの美しかりき 新雪の決してふれえぬその熱を帯びゐし眼(まな)から逃れきて、二月。 氷結のミイラ少女が膝かたく抱きしめる朝 慟哭とは何 うつぶせに死体のごとくしづもれば脈打つ不浄 イスス・ハリストス? |
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