::ハーフ・ア・イヤー 二又千文

6月・プロポーズ

ココナッツアイスかたまり溶けずある テーブル越しに無口のふたり

あさつきを椀に散らしてつまさきに力を入れて水曜の朝

球体のようであやうしなすすべもなく抱きあえばてらてらの月

鋭さのことうらやまし あのひとの口に飛びこむフォーク見ており

乱反射してきらめきぬアルミ箔 今日のメニューのヒロインのごと

やさしさも罪と知ってよ あきらめに似た愛情をスプーンですくう

黒豆のつやつやあるて必ずや君のくちびる奪ってみせる

ぬばたまのかりんとう食う よく乾く洗濯物を君と見ている

ほっぺたのふくらませしをそのままで乾いておりぬ白水仙よ

じゃがいものほっくりほっくりあたたかきコロッケきみは花嫁になる

プロポーズ(きらきらの言葉)は星の見えぬ日は少し強めに抱きしめ眠る

わがあおき血管のなか流れるも君の言葉のかけらだろうか

雨粒を受けとめているしるし見せ水たまりの環ひらいてとじる

たとえば火が君を覆えばその火ごと抱きしめてやる決意、結婚

七月・眠れぬ夜

バナナ5首

脱ぎ捨ててしまえば白きくだものもおさなく見えてなにかさびしき

みずからの遺志かもしれずなめらかな左曲がりに見とれてしまう

ゆらゆらと熱き温度で実りしをもぎ取ればただ黄色の果実

わがくちにつつまれてなおやわらかく果実そのままくずれてゆきぬ

日曜の午後にバナナを食うわれの髪の匂いに気づいて欲しい

コーヒー7首

ストロング・コーヒーいっきに流しこむ喉とくとくと点滴のくだ

さらさらのシナモン入りのコーヒーのせいで眠れぬ 手をつないでよ

透けている甘さを舌でたしかめて切なくもあるアイスコーヒー

湖の底にも似たり なにもかも鎮めてコーヒーカップの白し

わが愛と呼びたし ふたつ並び居てかたまりゆきぬコーヒーゼリー

ブラックの苦みも君も必要と思う夜にてゆびさきを研ぐ

いたみまで薄めてしまえ今日という日に立ちむかう朝アメリカン

巻き付けてみたリストバンドこれ以上きつくはできず夜のリミット

ひとさじの欲望があり ブランデー溶けてあやうきカラメルソース

玄関で見送る君のかかとまで陽は照らしおり夏のくる朝

Tシャツのビタミンカラーに透けている君の肌に夏は届けり

なみなみとそそいだ青のまぶしさにひそめる眉の君に潮風

8月・微熱

塗りたてのコーラルピンクの爪たてて男の肩は鮮やかに見ゆ

爪あとの残れる背を隠したるマドラスチェックの夏のあかるさ

おとうとの匂い飛び散る朝まだきくわがたむしを探した記憶

じゅうじゅうとお好み焼きのさめやらぬ情熱に似てソースは甘し

かんたんに愛せるようになるというくすりにわれは手付かずにいる

内側に閉じこめている麦わらをかぶりなおして夏のこぼれる

夏雨のつとつと濡らす棘に触れ アロエわたしの熱をさませよ

黄金をたずさえよ まだ青くある一ヘクタールにふりそそぐ夏

じゃらじゃらと重ねていたい青も黄も赤も緑も真夏の君も

一本の強さをもってひまわりの茎の眺める直射日光

しゃんしゃんと葉音鳴る鳴る全力で駆けて遅刻の君に判決

チョコチップのごと散り散りて蟻たちは太陽に溶けてしまうだろうか

わが喉の奥に転がる青春の日に呑みこんだビー玉ガラス

むきむきと入道雲は力こぶしめして夏のファイナルステージ

青空と君の真剣ガラス越しただ沈黙の坂道発進

肌はまだあつくある夜きみもわれもアイスクリームが食べたき二十歳

さよならにっちゃん

にっちゃんは3時20分突然に死んでしまった水面に夏

ぴしゃり、と打たれて何も言えずあるにっちゃんせめて目をひらいてよ

「起きなさい」何度促す母の声消え入りて死という無言

河の水をいっぱいいっぱい呑みこんだのだろうにっちゃんああ言葉まで

のみかけのウィスキーの壜 約束をしてた恋人 遺して二十歳

9月・赤い食卓

ひとくちめの紫キャベツの固ければいちいち不安になるサラダ・デイ
真四角に切れないアルミホイルしゃらしゃらしゃら笑みて どうでもいいじゃん

カッテージ・チーズしゃくしゃく食べて君は子どもがほしいなんてつぶやく

かみくだく強さはまるで意地っぱり 三枚がさねのポテトチップス

ダブルベットのちらし広げてかき揚げのの油ざっくりきってしまおう

ゆるやかに長く糸引けモロヘイヤ 独占欲もほろ苦き今日

3匹の子もちししゃもは真っ白なお皿の上で帝王切開

赤剥いてするするすると未来まで繋げてみるかわれらのりんご

つきぬけるすこやかさあり底にまでとどくストローのぶどうシェイク

梅干しのとみにすっぱき朝食にいとしさも増す君かたえくぼ

クルトンの浮いているあいだ血液のことは忘れてミネストローネ

洋梨の肌(はだえ)ざらつく夜が来る めかくしをしてナイフを持つよ

山折りと谷折り付けしナプキンをもてあそぶ吾の中指白し

とげとげを持つピロシキを差し出して休みじかんをべったりと塗る

くちづけは実験ですか 耳たぶのリトマス試験紙じっと見ている

おそらくは赤色5号 軽すぎる容器にもられおりべにしょうが

息もできないほど太きがほしい今日ニチレイアセロラドリンクを呑む

このボタン押したら世界は滅びるの? いつだれのため町中の赤

アフリカ・シェラレオネの紛争

このダイヤモンドは第三世界から生まれたんだな透明すぎる

血は赤くまだあたたかいこれ以上殺すな魚の目をもつおまえ

責任を持ちたい われの血液のひとしずくひとしずくが赤い

ぺティナイフもつ手の弾む力あり キウイ剥いても肌に触れても

10月・突然の絵本

おうどんののどごし心地よい今日はきっとあなたに抱かれるだろう

コスモスはすぐそこにあるという君の肩の長さも愛していたい

カレー粉をまぶしてしまえムニエルに25・5cm足に

スイミーの話をしよう突然の絵本すなわちあなたがほしい

靴下を脱いだ匂いもかがやかし一泊八千円ラブホテル

シャープペンシル先端のせつなさでスケジュール帳に月のマークを

そういえば胎児のようだ親指とひとさし指でつまんだカール

かたくなを一枚一枚剥がしつつ花びらになる君のコサージュ

もし僕が死んだら骨を粉にしてスキムミルクだと言って呑んで

この街にひどく愛した人がいた きんもくせいの香が強すぎる

二つしか刃のフォークこんなにも心細くてあなたの不在

泣いてもいいですか明日の朝に咲く予定にしてたサボテンの花

バックネット裏にはひみつの多くある たとえば誕生日の強き腕

アタックという名の洗剤底値にて もう恋をする必要はなし

どちらかというと短足なのだけどなんだかいいね真秋のボート

快晴に強情っぱりの君がいて空いっぱいの腕バトミントン

割り箸がうまく割れないそのくせは今日も変わらずしあわせタンメン

11月・白を着る日

かたっぽのゆくえは知れず もう息は吹き返さない赤い手袋

ゆく鳥のくちばしほのかに肌色で 初恋の人どうしたかなあ

お茶わんの欠けたひとひら あの夏に君に似合うという恋ありき

自由席自由席指定席自由席わたしはどこにゆくのか

お呑みのなかいつまでもブリリアント・グリーンこたえは見つかりません

切り餅の特大ふたつ入りてあるおうどんあなたがいてよかった

白を着る日はしんしんと近づいてゆっくりゆっくり柿の皮剥く

プレゼントしたものされたもの多く一生誓う指輪はすがし

手袋がないと寝言で訴えた夜どうしてもあなたのとなり

こっくりのクリームシチュウの真中にて呪文のようにある黒コショウ

パッションは体力勝負 若さゆえああ束の間の君アルデンテ

キッチンのスパイス小びんは宝物 カネロニつつむきみのやわ手々

あたらしき名字二度書き三度書きすこし遠のくレモンの匂い

12月・コーンフレーク

あぶらげに白飯つめてぱんぱんの気もち結婚式七日前

しぼりだすマヨネーズその強さにてあなた私を奥さんにする

考えることもうやめよう明日われは純白を着るためにあるのだ

この恋は最期の恋と確かめて胸ポケットにさすブートニア

はずかしいこともたくさんありました こんなに長いバージンロード

今度からどうぞよろしく 新しきベッドで朝を迎える勇気

ウェディングドレス脱いだらうすっぺらわれのを君はみそパンと言う

スモーキーピンクに変わる刹那レム睡眠の君たしかめる

ガーベラの明るさ茎の太くあることを教えよまだ見ぬ吾子に

さくさくとコーンフレークにリズムある今朝よりわれらおんなじ名字

ネクタイのうまくできないこの人にわが人生のリボンむすぼう

マシュマロのほうりて口のあどけなき君は来年父親になる

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