::流体論・熱量考・相関関係・不眠性 間崎和明

光の形式

間崎和明

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雪景に思う

人を思えば遙かにけぶるしらじらと息吹のおこる雪の揖斐川

人を知りそを忘るればやがて我が夜も果てなん雪のまほらに

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火は残るだろうか?

青い火のように心は倦み果てて夜の苺を頬張っている

火の裏を俺の視界の内側を戒律と呼べ禁色と呼べ

火は残るだろうか明朝この部屋で六度の輪廻の後に会わんよ

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爛漫

熔けていく夢のしぐさでもう一度名前を思い出せば夜桜

春を愛する理由の我にあらざれば駆け抜けてゆけ春の驕慢

飲み干した酒杯の膚を舌先でつ、と玩び花は散るらん

銀いろの桜の花に青年は吹かれておりぬ 滅せよ四月

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『にいさん』と呼ばるるもの

間崎和明

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手のひらでほほのかたちをつつむとき歯の裏側で血の味がする

おんかかびさんまえいそはか 街にあれば不眠の夜を兄は唱へる

妹を撲つ兄の掌のましろくて 眩暈 二段ベッドの原野

にいさんは、あたまがすこしおかしくてときどき海に花が散ります。

母飼いの男のごとく貌の無きものの胸乳に指立てたるも

熱量に触れたる膚にキリストの母の名うすく彫られておりぬ

そのままの嘘が欲しくてにんげんはにんげんを討つ はだかのせなか

野にあれば野に焔たつその火もて邑を贖うまりや観音

珊々と綺麗な嘘を唇にのぼらせている夕餉のひかり

唇に愛するものの名をのせて 生きるものにも祈りはいるか

咀嚼するあごの速度に晩春があまりに蒼くたそがれている

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遥拝

間崎和明

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月の遠さに

歓びの季節だよほら新月があんなに空に空に 見えない

声帯に真冬の月をぶらさげて ねえ、と耳打つ夜のうそつき

人の目の裡で世界は反転し各々持てる各々の月

夢の中の言葉はとても美しく<霜月>僕は眠りたくない

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光さやぐ

長椅子に夏の日射が立ち上がり人は神話を思い出せない

今 燦、とパンタグラフに電流が迸る 今宵の聖餐とする

カッターの刃を出す音に揺らされてそのまま僕を思い出さない

羽蟻の歩むを見やる汝の唇に力は離るヨブの如くに

猫を眠らせ父を眠らせ弟を眠らせているものとしたしむ

三叉路で躯の重なりあう午後に冬陽を断ちて走りぬ貨車は

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流体論

間崎和明

今生は人と生れたるさかならは群れておりまた故郷を捨てて

光あれ。海には海の暗闇が人には今宵遠ざかる雷

渇愛の螺旋に沈みゆくものよまろべや水脈に血はつながれり

水はいつか森の胸郭へと還るそのみちのりをあゆめばひとり

飲み干した電気ブランに眼裏の舟は水辺を求め漕ぎ出づ

獣偏の文字の増えゆく昼下がり少年はもうイルカに乗らぬ

更に遙かに海は僕から遠離り時計は人に嘘を教える

まだ青き檸檬を搾るこのゆうべ夕ただ我が水脈に君よつらなれ

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