::照坊主 呂 田暁

照坊主

呂 田暁

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(一)

誰ひとり父のことばを解さざる病院でなおも痴れる我が父

我が父は孫を息子と思いつつ日本を祖国と思いつつ死ぬ

名の知らぬ虫を数匹籠に下げ帰り来し子に祖父の死を告ぐ

虫を追ふ子の新しきスニーカーに緑をなす擦る夏の草叢


子の部屋ゆ我が子の太き声が聞こゆ「うちのおふくろ」とは我のことらむ

長雨に漂白されて吊られたる子のユニフォームは乾きがたしも

負け遂げし球児の髪は伸び出せり卒業の後の進路を語る子

南洋を跳ねとぶ海豚のステッチで子は看護士の夢を縫いだす

(二)

制帽を束ねた髪にピンで留め君に見せざるうなじをさらす

今年春耳鼻科病棟配属の後輩は手話を習い始める

看護婦は先生にあらず昼顔に巻き付かれつつ咲くヒメジョオン

夜勤明け非番の午後に君に会えば看護士になると君は言い出す

垂直に傘さす君の右の手の冷たくぬれしこぶしがかなし

果樹園の蜜柑が地面を埋め尽くすあらしの後の朝が照らす死

君はまだ雨の抒情の照坊主ちからいっぱい濡れ髪をふく

卓球の打ち合う音の聞こえくる日中(ひなか)の坂を駆けて降りゆく

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