::夏の麻酔 清水 寿子

書き出しはやわらかい線君の書くとしこうっすらほほえんでおり

「この雨はすぐ止む雨」と言い切ってたとえば海へ連れていってよ

強いシャワーミネラルウォーター化粧水我が身に呪文のごとく注げば

宣誓を今こそすべし空と吾と直立不動の入道雲に

この海を祖父と見ていた やまちゃんの話をとぎれとぎれにしながら

窓の奥見ていし君を見ておりし吾にしんと告げられる終着駅

うち掛けし毛布の皺をつたいつつ溜まる時間の真白き粒子

なめらかな砂丘の肌に影落とす君の右手は夜の使い魔

ほの白き月夜に出会う亡霊のような牝牛は前世の妹

関わりし日のカレンダーに散らばりて月の終わりに星座が浮かぶ

病めば目は海を求める円卓にやさしくしなる銀のスプーン

コール五回誠意少しもあらざれば我のにほんごは決して聞かせぬ

枕辺に行き場なくした羊泣く帝王不在の我に寄り添い

携帯をゆっくりゆっくり撫でながら私にもあるはずの存在理由(レーゾンデートル)

離れいて君の名前をぎゅっとつかむ念じれば見える気がして眠る

蝉の声 夕立いずれも醒めて聴く夏の麻酔もようよう果てて

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