::吟行会報告 平成十一年七月

吟行会報告(七月二十一日・上野動物園)
今年は夏休みの行事として、吟行会を行った。行き先は上野動物園。七月二十一日に、夏休み中ながら現役会員の多数、十一名が集まった。参加者は、森山・石井・加藤・木村・田中・仲井・野呂田・間崎・宮沢・石川である。上野駅公園口に集合し、語らいながら動物園に向かって十一時に入園した。常々会員同士で話すことだが、吟行会の利点の一つは、同じ時、同じ場所に皆で散策することにより体験が共有されるので、それに基づいて、歌を詠んだり批評鑑賞したりできることだろう。
今回は動物たちと暑い日射しとが共有の体験だった。園内ではソフトクリームを食べる人あり、パンダの足跡のスタンプを押す人ありで、楽しく過ごした。散策後昼食をとり、その後ゆったり詠作の時間を設けて、歌会は三時半に始まった。幹事長の森山さんが予約した東京文化会館の会議室は快適であった。司会は副幹事長の石川が担当した。以下、十一首の歌を題材ごとにまとめて紹介したい。会員から出た批評の主な点は各歌の下に付す。

《ペンギン》
ペンギンがクイクイ水をゆく時にプール風持つ青空になる 木村瑞穂
風に乗っている感じがする。
プールが青空、という発想が面白い。

しかられて?それとも照れか?ペンギンの空暑い氷の上のきょうつけ   加藤平祐
四句目がコンパクトにまとまっている。
「気を付け」がユーモラス。

心地よき盛夏に出会うケープペンギンいかにいますか異国の友よ   森山久美子
リズムも、「いかにいますか」の言葉もさわやか。
捕らえられている仲間を思っているのだろうか。

《パンダ》
風なき日パンダは臥して夢を見る玉笹の葉のそよぐ野山の    石川暁子
「風なき」「そよぐ」等バランスがよい。
調べが良く、ロマンチックな絵本のような世界

中国の核実験に抗議する厭戦的なパンダの昼寝       宮澤英邦
パンダは時事的なことと正反対の世界におり、滑稽味がある。
一句から四句がパンダの昼寝に対する評価、形容となっている。
ペンギン、パンダとも、同じ素材を扱う歌同士を見比べると、詠みぶりの違いが見え面白い。

《駝鳥》
ダチョウがいる「座っている」と言うよりも「いる」というのが適切なふうに    石井輝馬
「いる」に、ダチョウのなんとも言えない存在感が出ている。
能動的に存在するのと受動的にいさせられているのとでは違いがある。

《鴉》
檻の中いる猿を見る鴉の眼光さえざえと「人も同じカー」      山崎正和
鳥に代弁させており軽い洒落のようだが、内容はシビアなものである。
風刺と「カー」の鳴声が面白い。

《虎》
学名はPanthera tigris Altaica 犬歯に今も麝香や残る      野呂田暁
(注 Panthera…:アムールトラの学名)
学名も韻律にかなっており、奇麗。
野生の美しさを失っていない。

《キリン》
おーいキリン!と語りかける少女らと 無駄だと諌めるその父親       田中裕太郎
暑いので、子供はテンションが高く、動物と親は低い。キリンはそっぽを向いてサービスしない。
ロマンを失った父親と素直な少女の対比がある。よいスナップショット。
一番人気を集めた歌である

《人》
いつかヒトと書かれた檻に立ち止まり何も言わずに手を振ってくれ    間崎和明
言葉に面白さ、演技力がある。
人間もいつか…という題材は『猿の惑星』を連想させる。人の運命を受け継ぐ何かの種族へ言っている風だ。

《その他》
緑なる雑踏の中新たなる邂逅待てり 梅雨明け宣言       仲井千英
今日のような梅雨明けの頃に歌ったことが大変良い。
緑なる、に期待感が込められている。

吟行会でこその良さが発揮された歌会で、皆、「あの場面をこう詠んだのか」と分かることによって自分と違う物の見方が良く見え、より興味深かった様子だった。歌会は予定通り五時に終了した。外に出てみると歌会中に降り出した大雨がまだ弱まりそうもなかったため、名残惜しいことながら解散した。大雨はそれから一時間後には止み、まるでスコールのようだった。大変夏らしい一日だったと言えよう。

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